スポーツは、無限競技を超え、社会を変革する力を持っている。ラグビーチーム・浦安D-Rocksは、その可能性を信じ企業スポーツの新たなモデルを築こうとしている。組織再編という試練を乗り越え、地域社会と深く踏み込みながら、ラグビーを通じた社会貢献に挑戦する者の姿勢は、「SX(スポーツ・トランスフォーメーション)」という新しい可能性を見出した。
環境問題への取り組み、健康支援プログラム、がん治療支援など、スポーツの枠を超えた活動を展開するD-Rocks。その背景には、ラグビーの精神「One for All, All for One」を「One for Society」へと発展させ、スポーツが社会全体に貢献する存在であるべきだという強い信念がある。
彼らはなぜこの挑戦を続けるのか? スポーツとビジネス、そして社会の未来を切り拓く、浦安D-Rocksの前進の歩みを聞いた。
スポーツが変革の力となる時代
2019年、アジア初のラグビーワールドカップ開催後、日本のラグビー熱は大きく高まった。しかし、NTTコミュニケーションズを母体としていたラグビーチーム、シャイニングアークスは、NTTドコモのグループ統合によりチーム再編が問われたのだ。
NTTコミュニケーションズ シャイニングアークス東京ベイ浦安とNTTドコモレッドハリケーンズ大阪、2つのクラブチームの運命が交差し、2022年6月1日 株式会社NTTSportsXが保有する浦安D-Rocksとして新たなスタートを切ることになった。しかし、その過程は決して平坦なものではなかった。
ゼネラルディレクターである内山氏は当時をこう振り返る。
「シーズンの最中、企業再編という組織全体の大きな変化が進行し、現場は新しい体制への適応を迫られた。同時に、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が状況をさらに複雑にし、選手たちのモチベーションやパフォーマンスに影響を及ぼした。試練が重なり合う中、チーム運営は困難を極めた。しかし、逆境に立たされたからこそ、ラグビーそのものの在り方を再定義し、社会に新たな価値を生み出すための決意が生まれた。この経験が、D-Rocksが挑戦し続ける『SX(スポーツ トランスフォーメーション)』の原動力となった。」

SX(スポーツ・トランスフォーメーション)の可能性
内山氏が提唱する「SX(スポーツ トランスフォーメーション)」は、スポーツがハブとなり、地域社会や企業との共創を触媒とするモデルである。この取り組みの背景には、単なるエンターテインメントとしてのスポーツの振興にとどまらず、社会や企業が直面する課題を解決し、持続可能な未来を築くという強い意志がある。
浦安D-Rocksは、ラグビーを通じて地域のコミュニティと深く結びつき、スタジアムを単なる試合会場以上の価値を持つ場に変えようとしている。特に地域の子供たちへの働きかけには力を注いでいる。スポーツを通じて未来を担う世代に夢や希望を与え、ラグビーが教えるチームワークや相互理解の大切さを伝えるためのプログラムを展開している。
「令和の時代に合わせて変化し、ラグビーが子供たちに選ばれるスポーツへと進化する必要がある」と内山氏は語る。そのため、地元の学校やスポーツクラブとの連携を強化し、「利他」「自己犠牲」の精神を通じて、ラグビーが子供たちに新たな可能性や夢を提供する存在となることを目指している。また、地域の子供たちがラグビーを通じて主体性や協調性を育む環境を整えることに重点を置き、ラグビーが単なる競技を超えて、人生を学ぶ場となることを追求している。
「夢は一人では叶えられない。他者との協力や支え合いを通じて、大きな目標に向かう過程でさらに成長し、実現するものだ。ラグビーはまさにそのプロセスを体現するスポーツである。」
One for society
“One for All. All for One“とのラグビーの理念をアップデートさせる必要性があると内山氏は語る。“One for society”とは、社会のためにD-Rocksが存在することを示した概念だ。ラグビーを活用し、社会課題の解決を目指した活動を展開。また、企業との連携により包括的な取り組みを推進させる。2023.12.04にサステナ宣言を掲げ、その半年後にD-RocksはGHG可視化が実現した。
「一般的なスポーツチームでは3年ほど見込まれるGHGの可視化をわずか半年で実現できたのは、親企業とのテクノロジーや人材を巻き込めたからこそこそできたことである。多様なパートナーとの共創により知見とリソースを集中させるケイパビリティを保有していたからだ。」
浦安D-Rocksは、共創を推進し、各々の企業のリソースや技術を最大限に活用することで、スポーツとビジネスが相乗効果を生み出す仕組みを築いている。パートナー企業との協働でアップサイクル素材を活用したスーツの開発を検討中。
また、JALが進めるSAF(持続可能な航空燃料)プロジェクトに賛同し、家庭から出る廃油を収集し、環境保全に寄与する取り組みも展開中だ。スタジアムを訪れるファンに対しては、単なる試合観戦に留まらず、環境問題への意識を高め、行動変容を促す狙いだ。
クラブハウスを地域社会に開放することで、シティープロモーションの一環として大きく貢献している。
「ラグビーW杯では準決勝進出国がこのクラブハウスを利用し、競技を超えた国際交流が活発に行われた。さらに、オリンピック期間中にはサッカーなど他競技にも施設を開放し、多彩なスポーツを通じて地域社会との結びつきを強化してきた。これらの取り組みを通じて、地域住民はスポーツの魅力をより身近に感じ、浦安という街への親しみが一層深まったと考えている。
ラグビーは共創のショーケースとなる必要がある。まだまだ途上の段階であるが、企業スポーツが母体である我々だからこそ、そのポテンシャルは大きいはずだ。」
deleteCへの賛同
deleteCは、ふだんの暮らしの中で誰もががん治療研究を応援できる仕組みを提供している団体である。2019年に設立され、がん治療研究への寄付や啓発を目的としたカジュアルソーシャルアクションを推進してきた。この活動は、がんが治せる病気になる未来を目指すもので、社会と医療研究を結びつける新たな共創モデルとして注目されている。
D-RocksとdeleteCは共に、未来を見据えた社会課題の解決に向けて行動している。D-Rocksがスポーツを通じて社会にインパクトを与える中で、deleteCの「がんを治せる病気にする」というビジョンは、地域と社会をつなぐ架け橋として強い連携を生んでいる。
選手のバイタルデータを地域社会へ活用
選手たちが日々の練習や試合で収集するバイタルデータは、パフォーマンス向上だけでなく、地域社会への貢献にも活用されている。健康増進プログラムや地域住民向けのフィットネスセミナーにこのデータを応用し、健康的なライフスタイルの啓発を行っている。
例えば、選手の心拍数や体力データをもとに開発されたトレーニングメニューは、一般市民が無理なく参加できる形にアレンジされ、クラブハウスやジムで提供されている。また、データを基にしたセッションでは、スポーツ科学や健康管理の専門家が解説を加え、単なる運動ではなく科学的な根拠に基づく健康維持の重要性を伝えている。
こうした取り組みは、地域の子供から高齢者まで幅広い層に受け入れられており、スポーツが持つ価値を地域全体で共有するきっかけとなっている。D-Rocksはラグビーという競技を超えて、地域社会とのつながりを深める役割を果たしている。
ラグビーが示す未来の企業スポーツモデル
D-Rocksの取り組みは、単にラグビーの発展に留まらず、企業スポーツの未来像を提示している。
ラグビーはその精神性によって、国籍や文化を超えて人々を一つにする力を持つ。また、利他的な精神性やチームワークの重要性を教えるスポーツとして、社会や環境の課題に取り組む原動力となり得る。
D-Rocksの挑戦は、スポーツとビジネスを結びつける新たな可能性を切り拓いている。その影響力はラグビーを超え、地域社会や企業の枠を越えて国際的なスポーツコミュニティにも広がりを見せている。この取り組みは、スポーツが持つ潜在力を活用し、新たな共創の形を構築する上で様々な立場から期待が寄せられている。
聞き手:The Lodges 代表 長澤

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